薫ー雑伎団ー
花の都と呼ばれる町は、交易の中心で、多くの人が行き交う町だ。商人たちによる自治都市であり、城塞都市でもあった。
町では、祝いの時に向け、さらににぎやかになりつつあった。歌劇や戯曲、サーカスが劇場や広場でいくつも公演されていた。
犬を連れた白銀の髪を持つ少年が出てきた毛皮ギルドにあるサーカスの団長が入れ替わりに入っていった。
団長はその少年の目鼻立ちと白銀の髪につい見とれてしまった。町にいては浮いた存在だが、サーカスでは花になれそうな雰囲気があったのだ。
ただ、どこか憂いを帯びた表情が気になった。あの表情ではお客に受け入れられないかもしれないと。
戸を開けて、カウンターで毛皮の手入れをしている親父に声をかけた。
「この辺りに、弓の腕が良い猟師はいないだろうか」
「お前さんは、確か、サーカスの団長だったか。
ということは、腕が立っても土地の者ではダメなのだろう?
雇いたいという話か」
「ああ、話が早い。
長年つとめていた弓使いがな、色々あってな。新しい弓使いが欲しいと思ってきたんだ。
腕前や条件などあるが、話だけでも聞いてもらえればと思って」
「そう言うことなら、若いのがいるぞ。
さっき、この鹿の毛皮を持ってきた少年だ。
旅の途中といっていたな。安い宿を訪ねられたんで、知り合いの宿を教えてやったよ。
訪ねて見たらどうだ。年は、十六か七。銀色の髪に、白地に黒い毛の混じった犬を連れてる」
団長はすぐにピンと来た。すれ違った少年だ。
「そうか、助かるよ。
話だけでもしてみるよ」
店を飛び出した団長は辺りを見回すが、人の多いこの町では目立つ白銀の髪とはいえ見つけられなかった。
毛皮ギルドの親父に聞いた宿を訪ねれば会えるのだからあわてる事もないかと聞いた宿へと足を向けた。
少年は、久々に大きく稼ぐことが出来た。
大きな雄の鹿をしとめたのだ。見事に急所を射抜けたため、毛皮も高く売れたし、その立派な角は工芸職人が買い取ってくれた。
肉の多くは燻製にして保存食としたが、それでも余ったものはここへくる途中の村々で村人に分け与え、代わりに宿と新鮮な野菜や魚をごちそうになった。
おかげで、ここしばらくは落ち着いた旅が出来ていた。
といっても、終わりが見えない旅路だった。
稼いだお金がいかに大切かは身に染みていた。
無駄遣いは出来ないので、毛皮ギルドのオヤジに教わった安い宿に泊まることにした。
宿は結構なにぎわいを見せていた。春を前に、大きな祈念祭があるのだという。
大道芸や吟遊詩人らが、やはり祭りで稼ぐために各地から集まっていたのだ。
宿の中は、ちょっとしたサーカスのようだった。
宿の主人と話してみたが、この宿は満室だという。安い宿は祭りが終わるまで、どこも込み合っているだろうと言う話だった。
そんな、話をしている所へ、恰幅のよい男がやってきた。毛皮ギルドの入り口ですれ違った男だった。
「君に話があってきたんだ。聞くだけで良いから聞いてくれないだろうか。
聞いてくれるなら、今晩の宿を私が用意しよう」
少年は突然の提案に驚きながらも、なぜ、自分なのかを訪ねた。
「確かに、それは当然の話だ。
私は、サーカスの団長で、弓の名手を探している。君の腕は確かだろうと毛皮ギルドの主人が教えてくれたのだ。
それに、その銀髪だ。町中では目立つだけで良いことが無いかもしらんが、サーカスでは武器になる。
そこで、あとを追いかけて来たと言うわけだよ」
まるで、少年がこの銀色の髪で良い思いをしてこなかった事を知っているかのような口ぶりだった。
少年は、とりあえず、この男に話についていってみる事にした。
話自体は悪いものではなさそうだし、どことなく、信用できそうな気がしたのだ。
男の言うサーカスとは、それほど大きなものではなかった。演者が裏方もやっている十五人ほどの小さなサーカスだった。
「団長、おかえり、そいつは新入りか」
テントの張り具合を確認していた中年の男が声をかけてきた。
「ただいま。彼には、これから話を聞いてもらうところだ」
「そうかい。使えない感じだけどな、またな」
男はそう言うと、次の綱を見に離れていった。
「すまんね。口こそ悪いが、あれでもいい奴なんだよ。
さあ、あっちの馬車で話をしようじゃないか」
団長は、荷馬車の奥にある木製の小屋のような馬車へと案内された。
中は三段ベットなどがある休憩小屋のような感じだった。その奥にある事務の為の机で話をするようだった。
ベットでは二人が寝息を立てていた。
「すまないね。ここは、交代で利用できる休養所でもあるんだ。
まず、君に聞きたいのだが、何か目的があって旅しているのだと思うが、急ぐ旅なのかね。
急がないのであれば、私のサーカスの手伝いをしてもらいたいのだ」
少年は、それほど急がない旅だと答えた。この町の周辺で捜し物をする必要があるとも。
「そうか。捜し物に関して私たちが手伝うということで、力を買してもらえないだろうか。
例えば、弓で、投げたリンゴや、団員の頭の上のリンゴを射ぬいて欲しい。
出来るだろうか」
男の言う事は少年にとってはそれほど難しい事ではなかったから、それは、出来ると答えた。
「そうかね。ならば、手伝ってもらえないだろうか。
私たちはここに、祭りが終わるまで一週間滞在するが、その間、ここのテントで暮らせば、宿もご飯もただになる。それに手伝ってくれれば、給金も払うが、どうだろうか」
少年にとって、いい話だった。公演のない午前中は自由にしてもらってかまわないという話だったし、目覚めの伝承や薬になるという花に関して、団長が知り合いに聞いてくれるという。
早い方がよいと言うので、団員に紹介するという事になった。
道化師の二人、大道芸師の幼い二人、軽業師が六人、馬術師が一人、裏方の四人に団長をくわえた十六人のサーカスだった。
道化師は若い男女一人のコンビで、恋仲らしい。
二人は語ることなく、滑稽なしぐさで近寄ってくると、握手を求めて来た。
少年が手を出すと、その手に、小さな花がどこからともなく差し出されるのだった。
「我ら、クラウンをよろしく。
これは挨拶代わりに受け取っておくれ」
二人で声をそろえての挨拶だった。
大道芸の二人は、少年と同い年ぐらいだろうか。
「よろしくね」
にこやかに挨拶をする姉と、その後ろで、無愛想にする弟の姉弟だった。
弟は挨拶の折りに、抱きしめてると同時に、「姉さんが優しいからって、手を出すなよ」
と小さく呟くのだった。
軽業師たちは男四人の女二人で、空中ブランコから綱渡りと色々こなす、このサーカスの花形でもあった。
もう一つの目玉とも言えるのが、馬術芸だった。人馬一体の用に馬を操る美女は絵になるのだ。
「貴方は、私と組む事もあると思うわ。
その時はよろしくね。
私の心も体も射抜かないでね」
少年がキョトンとしていると、側にいた犬が吠えた。
「あら、彼女に嫌われてしまいそうだわ」
そう言うと、彼女は笑い出してしまった。
「おう、お前さん、一週間かもしれんが、新入りだ。
それなりに扱うから覚悟しておけよ」
笑い声の上から声をかけてきたのが、最初にロープをチェックしていた中年の男性だった。
裏方の親方だという。
「まあ、個性的だが、みんな良いヤツらばっかりだよ。
よろしく頼むよ」
団長がそう言うと、それぞれ仕事がある者は仕事へと戻っていった。
「おう、新入り、まずは、このサーカスの全体像を把握して貰わんとな。
ついてこい」
親方はそう言うと、すたすたと歩き始める。
「親方の後をついて行くんだ。
口は悪いけど、いい人なんだ」
裏方の若い男がそうささやいた。
少年は、親方の後を追って、サーカスを案内して貰った。
花を探していた少年は、思いかげずサーカスへ入る事になった。
それが、近道なのか、遠回りなのか、少年には解らなかったが、前に進んでいる事だけは解った。
サーカスでの日々が始まる。
随分と間が空いてしまいましたが、再開です。
これからは月に2話ぐらいのペースを守りたいですね。
だいたい話の方向性は決まったので、なんとかなると思うのですけどね。
所で、話は変わりますが、名優・藤田まことさんが亡くなられました。
先日、フジテレビ「剣客商売」でお元気な姿を拝見し、回復されたのかと思っておりました。
お正月にも「明日への遺言」をテレビでみて、円熟された良い役者さんだと思っていた所の事でした。
本当に、残念な事です。
ご冥福をお祈りします。
前の話
町では、祝いの時に向け、さらににぎやかになりつつあった。歌劇や戯曲、サーカスが劇場や広場でいくつも公演されていた。
犬を連れた白銀の髪を持つ少年が出てきた毛皮ギルドにあるサーカスの団長が入れ替わりに入っていった。
団長はその少年の目鼻立ちと白銀の髪につい見とれてしまった。町にいては浮いた存在だが、サーカスでは花になれそうな雰囲気があったのだ。
ただ、どこか憂いを帯びた表情が気になった。あの表情ではお客に受け入れられないかもしれないと。
戸を開けて、カウンターで毛皮の手入れをしている親父に声をかけた。
「この辺りに、弓の腕が良い猟師はいないだろうか」
「お前さんは、確か、サーカスの団長だったか。
ということは、腕が立っても土地の者ではダメなのだろう?
雇いたいという話か」
「ああ、話が早い。
長年つとめていた弓使いがな、色々あってな。新しい弓使いが欲しいと思ってきたんだ。
腕前や条件などあるが、話だけでも聞いてもらえればと思って」
「そう言うことなら、若いのがいるぞ。
さっき、この鹿の毛皮を持ってきた少年だ。
旅の途中といっていたな。安い宿を訪ねられたんで、知り合いの宿を教えてやったよ。
訪ねて見たらどうだ。年は、十六か七。銀色の髪に、白地に黒い毛の混じった犬を連れてる」
団長はすぐにピンと来た。すれ違った少年だ。
「そうか、助かるよ。
話だけでもしてみるよ」
店を飛び出した団長は辺りを見回すが、人の多いこの町では目立つ白銀の髪とはいえ見つけられなかった。
毛皮ギルドの親父に聞いた宿を訪ねれば会えるのだからあわてる事もないかと聞いた宿へと足を向けた。
少年は、久々に大きく稼ぐことが出来た。
大きな雄の鹿をしとめたのだ。見事に急所を射抜けたため、毛皮も高く売れたし、その立派な角は工芸職人が買い取ってくれた。
肉の多くは燻製にして保存食としたが、それでも余ったものはここへくる途中の村々で村人に分け与え、代わりに宿と新鮮な野菜や魚をごちそうになった。
おかげで、ここしばらくは落ち着いた旅が出来ていた。
といっても、終わりが見えない旅路だった。
稼いだお金がいかに大切かは身に染みていた。
無駄遣いは出来ないので、毛皮ギルドのオヤジに教わった安い宿に泊まることにした。
宿は結構なにぎわいを見せていた。春を前に、大きな祈念祭があるのだという。
大道芸や吟遊詩人らが、やはり祭りで稼ぐために各地から集まっていたのだ。
宿の中は、ちょっとしたサーカスのようだった。
宿の主人と話してみたが、この宿は満室だという。安い宿は祭りが終わるまで、どこも込み合っているだろうと言う話だった。
そんな、話をしている所へ、恰幅のよい男がやってきた。毛皮ギルドの入り口ですれ違った男だった。
「君に話があってきたんだ。聞くだけで良いから聞いてくれないだろうか。
聞いてくれるなら、今晩の宿を私が用意しよう」
少年は突然の提案に驚きながらも、なぜ、自分なのかを訪ねた。
「確かに、それは当然の話だ。
私は、サーカスの団長で、弓の名手を探している。君の腕は確かだろうと毛皮ギルドの主人が教えてくれたのだ。
それに、その銀髪だ。町中では目立つだけで良いことが無いかもしらんが、サーカスでは武器になる。
そこで、あとを追いかけて来たと言うわけだよ」
まるで、少年がこの銀色の髪で良い思いをしてこなかった事を知っているかのような口ぶりだった。
少年は、とりあえず、この男に話についていってみる事にした。
話自体は悪いものではなさそうだし、どことなく、信用できそうな気がしたのだ。
男の言うサーカスとは、それほど大きなものではなかった。演者が裏方もやっている十五人ほどの小さなサーカスだった。
「団長、おかえり、そいつは新入りか」
テントの張り具合を確認していた中年の男が声をかけてきた。
「ただいま。彼には、これから話を聞いてもらうところだ」
「そうかい。使えない感じだけどな、またな」
男はそう言うと、次の綱を見に離れていった。
「すまんね。口こそ悪いが、あれでもいい奴なんだよ。
さあ、あっちの馬車で話をしようじゃないか」
団長は、荷馬車の奥にある木製の小屋のような馬車へと案内された。
中は三段ベットなどがある休憩小屋のような感じだった。その奥にある事務の為の机で話をするようだった。
ベットでは二人が寝息を立てていた。
「すまないね。ここは、交代で利用できる休養所でもあるんだ。
まず、君に聞きたいのだが、何か目的があって旅しているのだと思うが、急ぐ旅なのかね。
急がないのであれば、私のサーカスの手伝いをしてもらいたいのだ」
少年は、それほど急がない旅だと答えた。この町の周辺で捜し物をする必要があるとも。
「そうか。捜し物に関して私たちが手伝うということで、力を買してもらえないだろうか。
例えば、弓で、投げたリンゴや、団員の頭の上のリンゴを射ぬいて欲しい。
出来るだろうか」
男の言う事は少年にとってはそれほど難しい事ではなかったから、それは、出来ると答えた。
「そうかね。ならば、手伝ってもらえないだろうか。
私たちはここに、祭りが終わるまで一週間滞在するが、その間、ここのテントで暮らせば、宿もご飯もただになる。それに手伝ってくれれば、給金も払うが、どうだろうか」
少年にとって、いい話だった。公演のない午前中は自由にしてもらってかまわないという話だったし、目覚めの伝承や薬になるという花に関して、団長が知り合いに聞いてくれるという。
早い方がよいと言うので、団員に紹介するという事になった。
道化師の二人、大道芸師の幼い二人、軽業師が六人、馬術師が一人、裏方の四人に団長をくわえた十六人のサーカスだった。
道化師は若い男女一人のコンビで、恋仲らしい。
二人は語ることなく、滑稽なしぐさで近寄ってくると、握手を求めて来た。
少年が手を出すと、その手に、小さな花がどこからともなく差し出されるのだった。
「我ら、クラウンをよろしく。
これは挨拶代わりに受け取っておくれ」
二人で声をそろえての挨拶だった。
大道芸の二人は、少年と同い年ぐらいだろうか。
「よろしくね」
にこやかに挨拶をする姉と、その後ろで、無愛想にする弟の姉弟だった。
弟は挨拶の折りに、抱きしめてると同時に、「姉さんが優しいからって、手を出すなよ」
と小さく呟くのだった。
軽業師たちは男四人の女二人で、空中ブランコから綱渡りと色々こなす、このサーカスの花形でもあった。
もう一つの目玉とも言えるのが、馬術芸だった。人馬一体の用に馬を操る美女は絵になるのだ。
「貴方は、私と組む事もあると思うわ。
その時はよろしくね。
私の心も体も射抜かないでね」
少年がキョトンとしていると、側にいた犬が吠えた。
「あら、彼女に嫌われてしまいそうだわ」
そう言うと、彼女は笑い出してしまった。
「おう、お前さん、一週間かもしれんが、新入りだ。
それなりに扱うから覚悟しておけよ」
笑い声の上から声をかけてきたのが、最初にロープをチェックしていた中年の男性だった。
裏方の親方だという。
「まあ、個性的だが、みんな良いヤツらばっかりだよ。
よろしく頼むよ」
団長がそう言うと、それぞれ仕事がある者は仕事へと戻っていった。
「おう、新入り、まずは、このサーカスの全体像を把握して貰わんとな。
ついてこい」
親方はそう言うと、すたすたと歩き始める。
「親方の後をついて行くんだ。
口は悪いけど、いい人なんだ」
裏方の若い男がそうささやいた。
少年は、親方の後を追って、サーカスを案内して貰った。
花を探していた少年は、思いかげずサーカスへ入る事になった。
それが、近道なのか、遠回りなのか、少年には解らなかったが、前に進んでいる事だけは解った。
サーカスでの日々が始まる。
随分と間が空いてしまいましたが、再開です。
これからは月に2話ぐらいのペースを守りたいですね。
だいたい話の方向性は決まったので、なんとかなると思うのですけどね。
所で、話は変わりますが、名優・藤田まことさんが亡くなられました。
先日、フジテレビ「剣客商売」でお元気な姿を拝見し、回復されたのかと思っておりました。
お正月にも「明日への遺言」をテレビでみて、円熟された良い役者さんだと思っていた所の事でした。
本当に、残念な事です。
ご冥福をお祈りします。
前の話
この記事へのコメント
今度はサーカス団ですか。
このサーカス団との出会いが少年を新しい冒険に導いてくれるのかな。
さきがとっても楽しみです。
ボイストレーニングの合間
ちょいと声に出して読ませて頂きました。
祭の街の雑踏、サーカス団の裏の表情
情景を手に取りながら読みました。
次の展開がとっても楽しみ(・~・)v
今度はサーカスの話にしてみました。これからどのように走り出すのか、お楽しみに。
私にも未来は見えていないのですから(笑)
少しでも面白そうだと思って貰えたなら嬉しい限りです。
良かったら過去の分も読んでみてください。
色んな人に逢って、様々なドラマを展開させてゆく。物語の幅が広がって行きますね。
藤田まことさん、たくさんの作品に出演されていたので、どこの局も再放送で復活されています。亡くなられたのがウソのようです。
旅モノにしようと軽く考えましたけど、やってみると結構しんどいです(笑)
ネタをひねり出さないと・・・
藤田まことさん、テレビで再放送している事もあって未だに実感がわきませんね。
新作を見なくなってから、だんだんと実感するのかもしれません。
少年が旅を通して成長していくという感じを
仍 さんのスタイルで書いていく そうとらえていいのかな?
これから月に二本のペースでアップする予定でいます。筆が進めばもっと早くなるかもしれませんが。
今回、間が空いてしまった事を反省していたりするので。
そういうわけで、お付き合いくださいね。